カイシャとFCバルセロナ

 世界的な映像配信会社Netflixが「カルチャーデック」という自社の人事方針を説明した社内資料を若い起業家に向けて公開しています。Facebook COOのシェリル・サンドバーグ氏が「シリコンバレーで書かれた中で最も重要な文書」と絶賛しているとの事で、気になったので「カルチャーデック 翻訳」と検索して日本語訳を読んでみました。あまりにも革新的で衝撃的な内容だったので特に印象的だった部分を共有したいと思います。

「将来の業務に適さない人にはお金を払って辞めてもらう」


 日本のサラリーマンからしたら冷や汗が止まらなくなりそうな一文です。日本のカイシャは「新卒一括採用」で「年功序列型賃金」で「終身雇用」という世界的にみてかなり奇特な雇用形態となっています。運よく「正社員」という身分(海外の友人に正社員と非正規社員の話をしてもそんな身分がそもそもないため全く理解されませんでした)を手に入れたサラリーマンが本当はやりたくもない仕事をやり続けるインセンティブは、年数とともに勝手に上昇する固定給と定年まで滅私奉公して得られる退職金でしょう(今ではそもそも賃金の上昇も退職金もそこまで期待できなくなってきている)。また、日本のカイシャはよっぽどの理由がない限り一度雇った正社員をクビにすることはできません(その代わりに正社員では窓際族が増え、不況時に非正規社員は真っ先に切られます)。「お金を払って辞めてもらう」というのは早期退職のことですが、日本では一般的に40代以上に対して使われる制度です。これが世界的な優良企業であるNetflixでは入社してまだ1年だろうが20代だろうが、成果が出せない人は退職金を払ってでも早めに辞めてもらうというのです。つまり、徹底された実力主義なのです。かなり厳しい世界だなと思ったのと同時に、Netflixが世界を席巻していることにも納得がいきました。

 しかし、よく考えてみれば、プロスポーツの世界は当然ながら完全な実力主義です。世界最高峰のサッカークラブであるFCバルセロナでは、せっかく高い移籍金を払って獲得した選手でも、結果が出なければすぐに契約解除金を払ってでも他クラブに移籍させられてしまいます。近年の例で言えば、ブラジル代表のフィリペ・コウチーニョ選手は、前所属のリバプールでの目覚ましい活躍が評価され、基本移籍金の約163億円に加えて出来高約54億円で、当時のクラブ史上最高額である約217億円でバルセロナに移籍しました。しかし、同じブラジル代表であるネイマールの後釜(その前にネイマールはバルセロナからパリ・サンジェルマンへ史上最高額の約290億円で移籍している)として期待されたほどの成果は挙げられず、移籍から1年半ほどでドイツのバイエルンミュンヘンへ約10億円でレンタル移籍となりました(レンタル期間は1年で買取の場合は約150億円で買い取れるオプション付き)。

 実力主義のもとでは成果が挙げられなければお金を払ってでも組織から離脱させられてしまいます。逆に、ネイマールのように、際立った成果が挙げられれば他クラブから莫大なオファーを受けることもできます(金額だけでなく、クラブで任されるポジションなども重要です。バルセロナでは世界最高の選手であるメッシがいる限り永遠の二番手扱い感は否めませんでした)。このように、ビジネスの世界においてもトップを目指すには実力主義は必然であり、限りなくプロスポーツクラブに近い形態の企業が増えているようです。実力主義の前ではあらゆる差別が排除されます。FCバルセロナが、「優秀だけど黒人だから」とか、「過去に短期間で移籍を繰り返しているから」とか、「あまりに若すぎるから、或いはもういい歳だから」といった理由で、ある優秀な選手の獲得を見送っていれば、その選手はすぐにレアル・マドリードに獲得されてしまい、リーガエスパニョーラを制覇することは難しくなるでしょう。逆に、未だに「新卒一括採用」という事実上の年齢差別や「年功序列型賃金」という建前重視の雇用を続ける日本のカイシャが優秀な人材から相手にされないようになってきているのもまた事実でしょう。自分がどんなキャリアを描きたいかによって、身を置くべき環境も異なってくるのだろうと改めて考えさせられる次第です。






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