本紹介『闘争領域の拡大』

 今回紹介するのはフランスのベストセラー作家ミシェル・ウェルベックのデビュー作『闘争領域の拡大』だ。ウェルベックは今も現役の作家で、新刊が出るたびに議論を巻き起こす。彼はデビューから一貫して「モテ・非モテ格差」をテーマに小説を描き続けている。彼の主張は、経済の格差が拡大し、資本主義の仕組みから零れ落ちてしまった人たちに対して国家は社会保障を充実させてセーフティネットを構築しようとしているが、その一方で新自由主義のもと自由恋愛、フリーセックスによって拡大した「モテ・非モテ格差」に関しては誰もケアしてくれないじゃないか!というものである。

 

 主人公の「僕」はソフトウェア会社に勤める30歳で、ある日同僚のティスランとともに地方出張を命じられる。この同僚がまさに「非モテ」なのである。出張先で繰り広げられる「痛々しい闘争」を主人公の「僕」は観察者のような立場からひたすら哀れみ、特に大きな事件が起きる訳でもなく物語は淡々と進んでいく。特に印象に残っているのは出張先のバーでティスランが女の子を口説こうとする場面だ。先に述べたようにティスランは「非モテ」だ。最初はいい雰囲気で話していたが、女の子の方が段々とつまらなくなっていく様子が非常に上手く描写されている。ひたすら暗く鬱鬱とした作品だが、不思議と読み終えると「よしまた頑張ろう」と前向きな気持ちになる(私だけかもしれないが)。その理由を自分なりに考えてみると、やはりより現実に近いのはウェルベックが描く世界観なのではないかと思うからだ。よくある展開で主人公が途中で急に素敵な女性と巡り合ったりしたら鼻白んでしまうのだ。

 

 就業構造基本調査(2017)を元に荒川和久氏が作成した「年収別男女50歳時未婚率」のデータによれば、男性は年収300万以下では3割、200万以下では4割が生涯未婚だが、年収600万以上で約9割、1000万以上では95%が一度は結婚している。つまり、男性では年収が低いほど未婚率が高く、年収が上がるにつれて結婚するようになっている。持てる者はモテるのである。政府の掲げる少子化対策として行政も婚活パーティを開催するようになった昨今、一生の内に複数の女性と恋愛したり複数回結婚を経験する男性がいる一方で、苦しみ続ける男性もいるのである。こういった現状を鑑みれば、ウェルベックの作品が話題を呼ぶのもよく分かるのである。

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