エッセイ 『2人の貴婦人』 前編 Paris, France 2015

出会いとは、自分の家の便器に隕石が落ちてきてスコーンと入るくらいの奇跡だと言うが、僕と彼女の出会いもそんなようなものだった。


その日僕はフランスを旅行していて、パリ滞在2日目だった。旅行といっても、いつものバックパッカーの1人旅で、食費は基本的に節約、ホステルも移動も安く抑えて、ひたすら歩き回る旅である。協調性がないということなのかもしれないが、こういう1人旅がとても好きだ。


今回もそんな旅だった。

パリ2日目は偶然同じくフランスに旅行していた友人達と朝早くからルーブル美術館を観て周ったが、友人達はその日の夜のバスで移動するため、お昼からはまた1人での行動になった。話し相手がいる旅行の楽しさをかみしめながら、ルーブル美術館を出てすぐのマクドナルドで、いつもより上品な味に感じるチーズバーガーを食べた。


その後、セーヌ川の中州にあたるシテ島のノートルダム大聖堂のすぐ近く、ステンドグラスで有名なサント・シャペルに入るための行列に並んだ。例によって、いかにも典型的な旅慣れてない旅行者の象徴ように、「地球の歩き方」(ダイヤモンド社)を脇に挟んで、大きめのバッグを肩から下げ、蒸し暑さで少し汗をかいていた。

そしてまた、典型的なついていない男の象徴のように、「地球の歩き方」(ダイヤモンド社、ヨーロッパ編、先輩にもらったやつ)を開いて見ている僕の腕まくりをした右手に、ハトが綺麗に糞を落としていった。


What the fu**!!


思わず出る言葉。まだ腕まくりをしていたため服に付かなかっただけよかった。緑と白と黒の混じったドロッとした物体が腕についている。

右手をかばいながら、バックに手を伸ばし、「地球の歩き方」(分厚くてボロボロのやつ)をなんとかしまい、ティッシュを探す。無い。いやあるんだけど、取れない。バッグにぐるぐる巻きにしてしまってあるジャケットの右ポケットに入っているのだ。この状況でそこまで理解できるも、取れなければどうしようもない。途方に暮れていると、後ろから笑い声が聞こえる。


可哀想ね。これ使って!私もあの鳥は嫌いよ。


英語だった。いい色に焼けた小麦色の肌。華奢な足にハーフパンツを履き、すらっとした上半身はタンクトップにシャツを羽織っている。少しふっくらした顔に優しい口元、ブラウンの眼、細く強い眉毛。栗色の長い髪をかきあげて、大きめのサングラスを頭に乗せている。小さなカバン、きつく縛った足元のスニーカー、彼女は典型的な旅慣れたヨーロピアンの象徴だった。

いたずらっぽく笑いながら、僕にポケットティッシュを差し出している。ポケットティッシュといっても、海外のそれは正方形の紙ナプキンに近い。苦笑いしながら紙ナプキンを受け取り、腕のshitを綺麗に拭き取る。すると彼女は、また小さめのバックから香水を取り出す。


腕を出して。


笑いながらそう言って僕の腕、さっきまでハトのshitがfu**だったところに優しく吹きかける。


Better??


Yeah...Thanks, much better.


汚れた紙ナプキンを道端のゴミ箱に捨てくる。彼女の優しさに感動して、何度もお礼をいった。

彼女の名前はソフィーといった。ドイツから来ていて、僕と同じように1人で旅をしているらしい。そんな事を話しているうちに、行列はどんどん入り口に近づいていって、僕は彼女と一緒にこの教会を見る事になった。

小さい教会で、聖堂は天井以外全てがステンドグラスでできていて、しばしばガラスの箱のようだと表現される。綺麗だねと話しているうちに全て見終わってしまうくらいの規模の教会だ。


教会を出て、お腹が空いたという彼女に僕がお昼をご馳走する事になった。さっきのお礼だ。近くのカフェに入る。彼女はパニーニのようなものを注文する。僕はコーヒーだけ飲みながら彼女と会話をする。僕の片言の英語で彼女を楽しませる事が出来ているのか不安だったが、彼女の、ソフィーの笑顔に僕が虜になるには充分すぎる時間が経っていた。

その後一緒に凱旋門、エッフェル塔まで歩く事になり、ルーブル美術館のピラミッドからコンコルド広場を抜けて、シャンセリゼ大通りを2人で歩いた。凱旋門に着いて、凱旋門に登ろうと言うソフィー。

僕は実は前日も登っているのだが、もう一度チケットを購入して一緒に登る。ルーブル美術館からかなり歩いた後に登る凱旋門の階段はだいぶきついはずだが、きつい顔を一つもせずに彼女は楽しそうに登っていく。頂上に着くと、パリ市内が一望できる。パリ市内はビルディングの高さ規制がされていて、空が広く街がどこまでも広がって見える。

凱旋門を中心に放射状に広がる通り。喧騒。パトカーのサイレンの音。少し曇ってジメジメした天気。控えめに存在感を出しているエッフェル塔。そしてソフィー。なんというか、完璧だった。
ステンドグラスが有名なサント・シャペル
放射状に伸びるパリの道と鉄の貴婦人(凱旋門の上から)
Ryosuke Takahashi

オンラインシェアハウス Kaede Apartmentの管理人です。
95年 北海道生まれ、道南在住
趣味は、旅、映画鑑賞、読書、カフェ巡り

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