(交換日記) After you

 After you、「お先にどうぞ」という意味の言葉ですが、この言葉に初めて出会ったのはイギリスに留学していた時のことです。

 留学当初は大学の寮に住んでいて、1階エントランスを開けようとした際に同時に居合わせた現地の大人びた学生から言われたのが最初でした。僕はもともと英語が得意だったわけでもないので、聞き取ることはできても意味はよく分かっていませんでした。寮に限らず、大学のキャンパス内や町中でも何回か言われたり、言われている人を見かけたりするうちに、「なんとなく、お先にどうぞ、くらいの意味合いなんだろうな」と思って辞書で調べてみたところ、やっぱり「お先にどうぞ」と書かれていました。


 帰国してからもたまにぼんやり留学時代のことを思い出しますが、「After you」というのはわりと海外(というかロンドン)ならではのものだったのかもしれない、と思ったりします。他にもドアを開け、自分が入った後の人のためにもドアを抑え続けたり、駅などの公共の場で重たそうなスーツケースを持った人に「May I help you?」と声をかけたりするのも、あまり日本(というか東京)では見かけることは少ないな、と思います。

 その理由が日本人(東京人)よりも外国人(ロンドン人)の方が生まれながら人間的に優しいからだ、とはさすがに思いません。個人の性格云々以上に、環境要因の方が大いに影響しているんじゃないかと勝手に思っています。

 というのも、「お先にどうぞ」と言うのは本当に些細な事ですが、それを言えるにはまず本人が健康で、それなりの貯えがあり、幸福な人間関係が築けていて、なお且つ時間的にも余裕を持っている必要があると思います。逆に言えば、たったそれだけの事が満たされないがゆえに、どんどん殺伐とした雰囲気になってしまう。

 

 駅構内で少し肩がぶつかったくらいで怒鳴りあっているおじさんを見かけたり、電車が5分遅延したくらいで怒り狂うサラリーマンを見かけたり、スーパーのセルフレジで操作に苦戦しているおばあちゃんにドギツイ口調で操作を代わる店員を見かけたり、ニュースで信じがたい刺傷事件を目にしたり、、、。

  

 少し話が大きくなりましたが、「お先にどうぞ」くらいは言える余裕は持てるようにしなきゃなと思う一方で、それでもやっぱり「お先にどうぞ」とはなかなか言えない人たち(自分も含め)のことも慮るべきだと思うこの頃です。

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