私たちに制服が2着あるわけ

 広島朝鮮学校が高校無償化の適用を求めた裁判が、最高裁で上告棄却された。日本政府の明かな差別を司法が認めたことに、心底怒りがこみ上げてくるので、緊急的に何回かに分けて投稿します。初回は、2019年2月に赴任地の広島にある広島朝鮮学校で見た「一人芝居」の記事です。


【一人芝居「チマ・チョゴリ」を見て】


 「私の名前はカン ハナ。朝鮮学校に通う高校3年生。私たちには、制服が2着あります。」。舞台に立つのは大阪朝鮮高級学校3年生の姜河那さん。姜さんのお母さんの物語、近所に暮らす在日コリアンのおばさんの物語など、民族衣装のチマ・チョゴリにまつわるエピソードを1人で十数役演じていました。

 20年以上前、日本各地で多発した「チマ・チョゴリ切り裂き事件」はまだ記憶に新しい人もいるのではないでしょうか。登下校中の朝鮮学校女子生徒の着るチマ・チョゴリが何者かに切り裂かれるというもの。どれだけ怖いか、どれだけ孤独だったか。これを期に、朝鮮学校では「第2制服」を導入しました。登下校中に着るブレザーなどの制服、そして「ウリハッキョ」(朝鮮学校)についたら着替えるチマ・チョゴリ。よく「かわいい制服の高校に行きたい」と、制服で高校を選ぶことは最近の女子高生の傾向でもありますよね。なぜチマ・チョゴリで登下校できないのか。自分たちが着たい服を着れない社会は、表現の自由がない社会ではないでしょうか。

 姜さんは、迫真の演技で、喜怒哀楽を丁寧に表現されていました。とても18歳とは思えない…。初めて舞台に立ったのは4歳のとき、演劇をしているお母さんの影響で演技を始めたそうです。

 「チマチョゴリ」の台本ができてからは、授業が終わってから、夜遅くまで練習をする日々。「1人でするから、孤独感や不安もあった。台詞を覚えるのも大変だった」といいます。10人以上の役を演じるから、それぞれのキャラクターに合わせて「表情」を変え、それぞれが抱える「悩み」や「葛藤」を表現するようにしたと話してくれました。

 「在日朝鮮人を誤解している人が多いと思う。普通の日本人学生となんら変わりない生活をしているけれど、北朝鮮で何か起きたとき、標的にされるのは学生たち。母親たちの世代が、なぜ命を危険にさらしてまで、チョゴリを脱がずに着ていたのか。その意味は何かを、演技を通して伝えたい」と姜さん。卒業後は、韓国・ソウルにある専門学校で演技の勉強をして、将来は女優を目指すそうです。「日本と朝鮮半島を、演技を通してつなげる存在になりたい」と話すまなざしは本当にまっすぐでした。


 いま、姜さんが韓国にいるのだろうか。あの時話してくれた夢を追い続けているのだろうか。また会って話したいな。


 広島朝鮮学校が高校無償化を求めた裁判は、最高裁で上告棄却となりました。毎月19日には、生徒や教員が街頭にでて署名活動やビラ配りをしていました。本当はしなくていいことなのに。貴重な学生の時間なのに。友達とおしゃべりしたり、買い物にでたり、まちを歩いたり、お茶したり…できるはずの時間。

 知ってほしい。少しでも関心を持ってほしい。無関心も「差別」に加担していることではないだろうか。

 

 あ、この一人芝居、見たい人はDVD貸すので連絡ください!


大瀧哲彰

Tetsuaki Otaki

95年北海道生まれ、大阪府在住。新聞記者。
執筆した記事、取材で感じたこと、文字にならなかった取材を文章にします。北海道、広島、三重、大阪、朝鮮半島の話題が多いです。

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