シーン95 ”ホテルI 833号室”
「ねぇなんで君はそんなに痩せているの?」
彼女の腹部に放出した精液をふいたティッシュをゴミ箱へ捨てにベッドを離れたとき、彼女はベッド脇においてあったクリスタルガイザーを一口飲んでから聞いた。
「さぁね、筋トレもそこそこしているけど、僕の握力の数値からは全身の筋肉量が低いことが見て取れるみたいだよ。」
彼女はなんとも言わずに、僕を見つめたまま、僕が話を続けるのを待った。
「BMIが基準値より低いことからいろんな問題が生まれるらしいね。痩せ型の人間は太っている人より死亡率が高いらしい。厚生労働省が警鐘を鳴らしているんだって。」
「 ケイショウ。」
彼女は初めて聞く言葉みたいに僕の言ったことを繰り返した。
「こっちにくれば?」
そう言って彼女は手を広げた。 言われた通りに、彼女の横に寝て、彼女の長い髪の毛に気を使いながら彼女の首の下に左手を滑り込ませる。彼女は短いキスをして、僕に薄いシーツをかけてくれた。クーラーの風が涼しく、僕らの体温を冷やしていた。
「君の彼女が羨ましいね。」
上目遣いで僕を見ながら彼女が笑った。
君の自慢は何?と聞かれて、少し前に風俗嬢を抱いた時に、彼女が羨ましいと言われたことかなと呟いたのを思い出した。
「彼女いるんだね。」
彼女が優しい声で呟く。僕に聞こえないように呟いたのだろうかと思うほど小さな声だった。
「いや、少し前にフラれたよ。僕は嘘がつけないんだ。風俗に行くなんて最低って言われたよ。まぁ当然か。」
「それは、風俗で働いている人に失礼だよ。彼女たちは、別に他人の傷を舐めたいわけじゃないわ。」
「それもそうだね。僕らは他人のことなんて1mmもわからない。」
だから生きているのだ。こんなにも苦労しながら。
iPhoneが震える。
6時間の睡眠をとるために1時には寝ましょう。
0時30分を回った。
現在構想中のお話の一部です。
人間関係から離れたくて、北海道を旅する男の話です。
自分探しの旅なんて、本当に意味のないただの現実逃避だとこの頃になると思います。
きっと世間の大人たちも、モラトリアムという言葉を使う時と同じくらい、もしくは、「ご一緒にポテトはいかがですか?」と尋ねるのと同じくらい、自分探しの旅なんて、意味のない発言なのだと思います。
頭の中にあるうちは誰だって名作を送り出す準備ができていると思っているものですが、頭の中にあるうちはそんなものただのdog shitです。出し続けないと意味がないのです。できるうちにやっておかないと意味がないのです。逃げるな。
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