射撃場に行った時の話①
冬のある日。
私は旦那と近場の射撃場に向かっていた。旦那が運転する傍ら、私は射撃場を頭の中に描けずにいたため、どんなところにあるものかと窓の外の景色を眺めていた。白い衣に身を包んだ背の高い木が、車道のわきに行儀よく並んでいる。
ここだよ、と旦那が言った。旦那がハンドルを右に切りながら、車道から車を雪原の方へ動かす。見ると、大きな木製の看板があり、射撃場の名前が表記されていた。広い雪原の駐車場には、車がたくさん駐めてあった。私達も車を駐めて外に出ると、ここで落ち合う予定だった友人が、少し離れた場所からこちらに手を大きく振っているのが目に入った。旦那が車の後方に回り、銃や銃弾等が入った黒のバックパックを荷室から取り出す。友人も、自身の大きな鞄を車から取り出し、こちらに歩いてきた。
「よっ。」
「おう。」「やっほー。」
今日は冷えるね、なんて話をしながら駐車場を歩き、私達は、駐車場と射撃場を仕切るように左右に広がる木のカーテンの間を通り抜けた。
本当は、私はここに来たくなかった。
以前も何回か友人に、射撃に誘われたことがあったが、いつも断っていた。私は銃が嫌いだからだ。
そんな私が今回、何故行く気になったかというと、今住んでいる家に、私と旦那が移る数年前 強盗が入ったという話を聞いたからだ。以前、その家に住んでいた家族の話によると、二人組の強盗がドアを破壊して家に侵入して来たらしい。たまたま家に残っていたその家族の一人が、その二人を目撃した途端、彼らは退散したらしいが、私は、もし彼らが銃を持っていて使ったりしたらと考えると、頭から血の気が引く思いだ。旦那は、強盗が殺人にまで手を染めるケースはあまりないよ、と話を聞いて恐怖する私に言っていたが、最悪の事態はいつでも起こりうるだろう。ここは、条件さえ満たせば簡単に銃が手に入る国なのだから。
何かあった時に、いつもベッドの脇にかけてある旦那の銃は使えるようにしておこうと思ったのだ。
木々の間を抜けると、少し先に小屋が見えた。小屋の向こうには、さらに広がる雪原が、山脈の裾まで果て無く見える。銃声があちこちで空気を揺らして、耳障りだ。
あの小屋の中が射撃場になっているのかな、と考えていると、友人が、あそこの小屋で射撃場利用の受付をするのだと教えてくれた。どうやらここは、野外射撃場らしい。小屋の向こうをよく見渡すと、簡単な木製の腰かけとテーブルが備えられている、鉄骨造の屋根で覆われた、野球場で見られる待避壕のようなスペースが見えた。
小屋に入ると、中は大男達で混雑していた。自分達の順番を待って、扉の隣にある受付で身分証明書を提示し、射撃場利用料を支払う。その後また外に出て、射撃可能な場所へ歩いて向かった。間を空けて鳴り響く銃声が次第に大きくなり、鼓膜を痛いほど揺らす。
「ハニー、これ使って。」
旦那がバックパックから何かを取り出して、
「イヤープロテクターだよ。これでうるさくないでしょ?」と、ヘッドフォンのようなものを私の頭に付けてくれた。なるほど、確かにイヤープロテクターのおかげで、遠くから銃声が聞こえるようだ。旦那が私の横に回り、イヤープロテクターに付いているつまみを回した。旦那が、聞こえる?と私に聞いた。すると、銃声は遠いまま、旦那の声だけがはっきり聞こえた。私は小さく感嘆の声を上げた。「うん、聞こえる!」
これで、銃声に邪魔されることなく、イヤープロテクターをしたまま仲間と会話できるのか、と感動しているうちに、私達は射撃可能なスペースに着いた。
そこは、受付をした小屋から徒歩5分ほどの距離で離れていて、野球場に見られる待避壕のような半屋内の場所だった。壁側にあるプラスチック製の扉から入ることができた。
私は、最初のうちは、射撃を楽しむ旦那と友人をただ眺めていた。二人は、どちらが的のより中心に弾を当てることができるか競い合っていた。私はふと目を地面へやった。すると、私が今まで砂利だと思っていたものは、全て空薬莢であることに気が付いた。ギクッとして、地面を指さしながら二人に話しかけた。「これ、全部銃の弾だよ!」
すると友人は、ああ、と言って、彼が使用している銃弾を見せてくれた。そして、銃弾が発火する仕組みや、銃のどの部分から銃弾の殻が出てくるのかを教えてくれた。
「銃弾は自分でも簡単に作れるんだ。その方が安いし、今度からはそうするつもりだ。」
そう言う友人が、自分とは全く異なる生活をしている別の生き物のように感じられた私は、本当に銃の使い方を学ぶ気があったのだろうか。私はただ、屋根で積雪から守られていないこのスペースの向こう側には、どれだけの射撃の跡が雪の下に隠されているのだろうかと考えていた。
雪が降ってきた。
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