(交換日記)空想とは理由を探し続けるということ
人間の脳は有機的な物質に過ぎなくて、細く分解した先はただの分子の集合体らしい。
その分子同士が電気的な信号を送り合って、僕たちの意識が生まれる。
さらに言えば、自意識を脳が認識する前に、すでに脳の分子は電気的な信号を発信しているので、むしろ意識すら有機的に作られたものに過ぎない。そう考えると人間の思考なんて、自分で作り上げたものとは言えないのかもしれない。
例えば、僕たちは夢を見る。
その夢を覚えているかどうかは別として、人間は一夜のうちに数十回の夢を見ていると言われている。
なぜ僕たちは夢を見るのか。
夢は脳が記憶の整理をしている状態だと聞いたことがある。しかし、人間の脳はとても複雑で、絡み合った記憶の束を解いているうちに、あり得ないような辻褄の合わない夢体験をしていることがほとんどだ。しかし、夢は自分が見たこと、思考したこと、脳が刺激を受けたことが形を変えて、混ざり合ってそれが投影されているに過ぎない。
全ての現象には必ず理由があるものだ。
僕は最近同じような夢をよく見る。
同じ人がよく現れる。その人のことを考える回数が多いのだろう。 また、同じ記憶を辿っているだけなのに、夢が訴えかけるメッセージのように錯覚して、目を覚ましたらその人のことをふと考えてしまう。
全ての感情には必ず理由があるのだ。
人間が進化していく中で、天敵から逃れるために、または食料を得るために、敵と仲間を見分けられるように、子孫を残せるように。 そうやって備わっていったのが感情だと思う。あるべくして生まれる感情に現代人はここまで悩まされている。僕たちは動物ではないという傲慢で怠慢な食物連鎖の頂点に立ってしまっている。
少し話が逸れた。
僕は物語を書くことが好きだ。 今は、絵本を書いている。『星降る夜の贈り物』という題名である。
ある少年が、少年の大切な人の誕生日に贈り物を探している途中、奇跡のように星が降ってきて、大切な人にその贈り物を渡しにいくというストーリーだ。 絵本の文章を作る以上、どうせなら思いきりファンタジーな物語を書きたいと思った。
しかし、ファンタジーとはなんでもありの世界ではない。物語の中に起こる全ての出来事に理由が存在しなければいけないと思う。
なぜ彼女は少年の大切な人なのか。 彼女とは誰なのか。
なぜ星が降ってきたのか。
なぜ少年は星を渡しながら歩くのか。
少年は何歳なのか。少年の大切な人は何歳なのか。
全てに理由がないと、その物語はひどく歪んで見える。
イラストレーターの濱里さんの絵には、必ず物語がある。 絵の構図や登場人物、背景、その全てに物語があって、その絵が存在する理由がある。
だからこそ、濱里さんと入念な打ち合わせを何回も行い、文章を書き直して、また濱里さんに読んでもらう。 その過程で、少年の気持ちや行動、出会う人物の全てに理由と背景を書き足していく。 ファンタジーとは、そういうものだと思う。
作者が描いた空想の理由を探す。
イラストレーターが書き残した目的を当てはめる。
そして、あえて書かなかった空白を、さらに空想する。
ファンタジーを自分の感情の理由に翻訳していく知的作業に僕たちは静かに心を震わせているのだ。
全ての感情には必ず理由がある。
あなたがあの人を好きな理由が必ずある。
空想とは理由を探し続けるということだ。
ゆえに僕たちの空想に終わりはない。
Room 101 Ryosuke Takahashi
『星降る夜の贈り物』第2部 Coming soon...
第1部へはRoom numberからどうぞ
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